Posted on Sep 22, 2018 in blog
BOM(部品表)、特にE-BOM(設計部品表)について、いくつか考察したいと思います。以前にも記載してますが、基本スタンスを明確にしたいと思います。まず、E-BOMは、”設計を強くする” という観点からすると、ほとんど意味をなさないものというスタンスでいます。なぜなら、設計の本質は、「設計パラメータ(設計諸元)を確定すること」であるからです。なので、要求スペックに対して、より最適なパラメータを選定できるかにかかってきます。(図の3階層の真ん中部分)
設計者は、様々な種類のパラメータを複雑に絡み合いながら決めていっています。代表的なものをいくつか例をあげます。
【性能値】
要求を受けて最初に決めるもの。処理量・定格荷重・最大速度・トルク・容量など。比較的、無形のパラメータとなる。
【方式値】
性能を受けて、有形物としてまず決めるもの。スライド機構を実現する方法として、ローラ方式/ガイド方式。冷却構造を実現する方法として空冷/水冷といったもの。基本形状設計/方式設計に分類されるもので、機構・構造・システム・パターンの設計となる。
【寸法値】
方式が決まれば、具体的な寸法・プロポーションを決める。ローラ方式を選定したなら、ローラ径・ローラ幅などの具体的な寸法を決める部分。これは相似形設計に該当する部分(基本形状の伸縮で表現できる設計)。これは、最終的な顧客要求 ”値” にフィッティングしていく部分となる。
これらのパラメータを最適に選定できるかが設計者の腕の見せ所となり、安心安全を考えれば、板厚や肉厚などを寸法を大きく・厚く設計しておけばよい。しかし、それではコストで負けてしまう。様々な条件のなかで、ギリギリまで薄く・軽くできるかがベテランのなせる技となるのです。
設計者が選定するパラメータ(設計諸元)を1つ間違えるだけでトラブルになります。軸設計において、軸径・軸長などを数mm間違えるだけで共振による大トラブルになる。架台の板厚を3mm間違えるだけで偏荷重に絶えられずトラブルになる。など諸元が品質を支配しているのです。同様に、コスト・納期も支配することになります。軸の1つ目の段差を30mmから25mmに変えたことで、社内加工できず外注加工になりコストも納期のアップするなどです。このように、設計者が最終的に頭で選定する設計諸元(途中で、技術計算ツールを使ったり、マニュアルを使ったりする)が、製品QCDを支配していると言えるのです。強い設計とは、このパラメータを、より限界値で選定できたり、より高度な諸元値を採用することにあるのです
前述の図(3階層)の一番下の「図面・部品表」は、設計者が選んだパラメータを、作図したりモデリングしたりする行為となります。なので、図面や部品表は、あくまでも設計の結果でしか無いのです。これは、出図前の仕掛図面であったとしても、設計の思考プロセスからすると、結果でしか無いのです。製品の付加価値を生んでいるのはあくまでも設計パラメータなのです。そう考えると、冒頭に言った、”設計を強くする”という観点において、部品表は意味をなさないということが理解できると思います。
では、E-BOMは不要かというと、そうではありません。E-BOMは絶対必要であり、私も今でも多くのE-BOM導入プロジェクトは手がけています。では、なぜE-BOMが必要なのか?ということです。E-BOMの必要性の1つ目は、「発生源入力」という考え方。これは、情報管理の大原則です。企業において製品に必要な部品は誰が決めているか?設計です。ならば、設計が情報を入力することが、企業全体で考えたときに、最もミスが少なく、最も工数が少なくて済むのです。これが発生源入力という考え方です。なので、E-BOMは、設計者にとっては意味がなくても、後工程のために、バカを見て入力をしなければならないのです。
E-BOMの必要性の2つ目は、製品・部品を、数として表現し「後工程とのコミュニケーション」を円滑に行うためです。前述の図の一番下(3階層目:図面/部品表)は、設計の本質ではないが、設計内容を後工程に適切に伝え、コミュニケーションを取るために必要な要素になるのです。後工程とコニュニケーションを取る際に、設計内容を質/スペックの表現体系として記しているのが、”図面” になります。また、設計内容を量の表現体系として記しているのが、”部品表”になります。なぜ、わざわざ質と量の別々の表現体系を作らなければならないかと言うと、設計より後の工程(調達・製造・物流など)は、基本的には”数”で仕事が動くからです。なので、設計内容を”数(量)” として表現しておくことで、後工程とのコミュニケーションが円滑になるのです。
30年前は、設計は図面さえちゃんと作っていれば、適切にものを買ってきて、作ってくれていました。部品表などなくてもものづくりはできるのです。ただ、それでは企業全体として円滑に仕事が回らなくなったり、開発のスループットを上げるのに限界がでてくるのです。それをE-BOMによってコミュニケーションやスループットを改善しようという動きが出てきています。そのような経緯を考えれば、E-BOMがなんのために必要であるかも自ずと見えてくるのではないでしょうか。
そう考えると、設計を大きく2つにわけることができます。「要求」「設計」が、設計の直接業務として捉えることができ、この直接業務が、”設計を強くする” 本質となります。それ以降の「図面」「部品表」「原価」は、設計の間接業務となり、この間接業務は、”コミュニケーションを良くする” ために必要であると位置づけられます。設計はできるだけ、設計の直接業務に注力できる環境を整えていく必要があります。そのために様々なテクノロジーの採用が不可欠になるのです。ただ、現実には、設計の直接業務だけに注力することは難しく、”図面(+計算書・仕様書)” に設計内容を転写しなければ、他人には伝わりません。なので、現実には、「要求」「設計」「図面」の3つに注力できる環境が必要なのです。この3つは、製品付加価値をスペック(質)の視点で展開していく思考プロセスといえ、「部品表」「原価」はボリューム(数)で展開していく思考プロセスといえます。なので、スペックマネジメントの部分に注力でき、ボリュームマネジメントの部分はシステムで自動化していくことが目指す姿といえるのです。
今回は、BOMの考察として、E-BOMの位置づけについて述べました。次回は、BOMのリレーションについて触れていきたいと思います。
2018年09月22日
真善美の心で・・・・ プリベクト 北山一真